日本生体防御学会について

【設立の趣旨】  
 生物は外来性の異物や自己成分の一部を適切に処理して、個体の独立性、恒常性を維持する生体防御機構を備えている。この防御機構を生命体の種を超えて把握するため、生体防御学会を設立する。(平成2年2月3日)

【研究対象】  
 本学会では研究対象として原始的な生物からヒトに至る生体防御系を広く取り上げる。 また防御因子としては、凝集素群、殺菌性・殺ウイルス性などの活性因子、原始的ならびに分化の進んだ食細胞系細胞、原始的免疫現象などが主な研究対象となる。リンパ球による抗原特異的免疫現象は脊椎動物防御系の一つの因子としてこれに含む。

 

【予想される効果とその成果の活用】
 進化の段階での種々の生命体について各防御因子の研究が進み、その役割と位置が明らかになると共に、それぞれの要素が発展していく様相を把握できる。また生命体個体における防御因子の受け渡しの時間的経過と進化によって獲得した要素の関係が体系的に理解できる。寄生体や体内外異物の処理機構とその限界が明らかになる。
 これらの成果によりヒトの疾患の治療、予防、健康の維持について新しい局面が開かれることが期待される。またバイオインダストリーを含む畜産学、水産学などの高い生産性の維持に多大の影響があるものと予測される。

【研究領域】  
①個体レベルでの研究  
●系統発生の各段階における各動物種に見られる生体防御系の特性
●各防御因子の役割とその重要性の度合、各防御因子の時間的受け渡し
●個体発生における防御系の発達、その系統発生との関係
●外来性異物(寄生体、化学物質など)の処理機構
●自己成分(老廃成分、損傷細胞、不要活性物質、変態前組織など)の処理機構
●外的環境(放射線、光、温度、酸素などの物理化学的要因、ストレスなど)による自己変性とその修復
●寄生体などのエスケープ機序

②器官レベルでの研究  
●生体防御系のネットワーク(単核食細胞、リンパ系、未発達のもの)の解析、その相互作用および調節(情報伝達、増幅、制御)系統発生・個体発生における発達の様相、環境とネットワーク

③細胞レベルでの研究  
●防御系細胞の異物・変性自己成分の識別
●受容体、情報伝達、応答、異物排除機構、各細胞間の相互作用
●メデイエーターとその受容体、情報伝達応答、体液性防御因子との関わり
●これらの個体発生、系統発生、寄生体のエスケープ機序

④分子レベルでの解析  
●細胞レベルでの問題の無細胞系での解析

 (例えば、防御に関する受容体、情報伝達、応答、損傷とその修復など)
●遺伝子レベルでの解析、人工生産

⑤集団レベルでの研究  
●疾患の予防、健康維持 集団での健全さの維持
●生体防御機構異常の遺伝学的把握 その制御

⑥生態学的レベルの研究  
●動物種間の相互関係(共存と排除)
●環境変化と生体防御
●生体防御の比較生物学